
ウイスキーとガソリンは作り方は同じなの?

大人を楽しい気分にさせてくれるウイスキーと、車や機械の燃料として欠かせないガソリンは、「蒸留」という方法でつくられています。蒸留法について、本坊酒造に教えてもらったよ。
どちらも蒸留法でつくられています。
蒸留法は、錬金術師の技だった!
いまから約2000年以上前の古代エジプトで、現代の科学技術の基礎となる錬金術が生まれました。蒸留法は、錬金術で使う技術の一つで、金属や万能薬づくりの研究に使用されていました。
蒸留法とは、原料となる液体に熱を加えてできた蒸気を冷やして、再び液体に戻す技術です。蒸留することで、材料の成分は分離され、材料に含まれていた不純物が取り除かれて、きれいで純度の高い液体になります。
蒸留のしくみ

- 1 液体を熱して蒸発させる
- 2 蒸気を温度の低いものに触れさせて冷まし、純度の高い液体に戻す
アルコールを含んだ液体を蒸留すると、純度の高いお酒ができます。
錬金術って何?
錬金術とは、鉄や銅などの金ではない金属を金に変えたり、人間の病気を治して不老不死をかなえる薬の開発を行う、原始的な科学技術のことです。古代エジプトやイスラム世界を経て、1200~1600年ごろのヨーロッパで、盛んに行われるようになりました。
この技術は、「賢者の石」とよばれる神秘の赤い物質によってかなうと考えられていました。そのため錬金術師たちは、賢者の石をつくることを大きな目標にして、日々研究を行っていました。蒸留法は「賢者の石」づくりの実験に使われていました。
現在も活用されている蒸留法
いまでは、蒸留法を利用した、さまざまなものがつくられています。どれも、作業の流れは同じですが、原料などに違いがあります。
お酒をつくる
麦や米、トウモロコシなどの穀物から、焼酎、ウイスキー、スピリッツなど、特にアルコール度数の高いお酒をつくります。

ここがポイント!
蒸留法を利用してお酒をつくる場合は、先に原料を発酵させてから熱します。
ガソリンをつくる
液体の石油を熱して、ガソリンなどのさまざまな燃料をつくります。

ここがポイント!
ガソリンが抽出できる温度は35~180℃。温度の違いで、灯油やLPガスなど別の燃料になります。
アロマオイルをつくる
主に、草花や樹脂などの植物から、香りの付いたアロマオイルをつくります。

ここがポイント!
アロマオイルは、原料に水蒸気をあてて成分を抽出する「水蒸気蒸留法」などでつくります。

蒸留することで、いろいろなものができるんだね!
蒸留酒はこうしてつくる
お酒には、主に醸造酒と蒸留酒の2種類があります。どちらも、原料に含まれる糖分を微生物によって発酵させてつくられます。蒸留酒には、さらに蒸留という工程が必要になります。
醸造
米や芋、麦などの原料に含まれるでんぷんを、麹菌や麦芽に含まれる酵素の力で糖分に変えた後、酵母で糖分を発酵させます。日本酒やビールなどが醸造酒です。また、果物に含まれる糖分を酵母で発酵させてつくるワインなども、醸造酒の仲間です。
蒸留
醸造酒を蒸留し、純度の高いお酒をつくります。ウイスキーや焼酎などが蒸留酒です。
ここでは、蒸留酒のウイスキーをつくる工程を紹介します。

麦芽をつくる
原料となる大麦を水につけて発芽させ、その後乾燥させます。発芽した大麦を麦芽(モルト)といいます(写真は麦芽)。

麦芽を粉砕
乾燥した麦芽を粉砕機(モルトミル)で細かく砕きます(写真は粉砕した麦芽)。

仕込み
粉砕した麦芽と温水を混ぜ合わせ、糖化機でよくかき混ぜます。これによって、麦芽中に含まれるでんぷんを酵素が分解して糖分をつくり、甘い麦汁にします。

発酵
甘い麦汁に酵母を加えてアルコール発酵させます。

発酵
ウイスキーの蒸留は2回行われます。まず、アルコール発酵させた液体を初留釜で蒸留し、アルコール度数約20%の液体(1)をつくります。
次に、(1)を再留釜で再び蒸留して、アルコール度数約70%の無色透明の原酒をつくります。

貯蔵・熟成
原酒に水を加え、アルコール度数60%前後にしたものを樽に詰め、長期間寝かせます。原酒は、樽の中で貯蔵・熟成されることで、琥珀色の香り豊かなウイスキーになります。

どうしてウイスキーは腐らないの?
ウイスキーを長期間寝かせていても腐らないのは、ものを腐らせる原因の微生物を、製造過程で熱を加えて殺していることと、アルコール度数が高くて微生物が生きられないからです。
お酒の成長を信じて待つ、ロマンのあるしごとです
本坊酒造株式会社
津貫蒸溜所ウイスキー製造担当 草野辰朗さん
ウイスキーは、長い間樽の中で熟成させるため、環境によって成長が異なります。本坊酒造では、長野県と、鹿児島県の津貫、屋久島の3カ所で原酒の熟成を行い、異なる成長をたどるウイスキーづくりに取り組んでいます。
ウイスキーづくりは、長いもので30年以上の歳月をかけます。私たち人間が関われるのは、その中のほんの一瞬です。その一瞬に全力で取り組み、ウイスキーの成長を見守り、おいしくなることを信じて待つ、そこにとてつもないロマンを感じます。
この職業は、五感を使うしごとです。興味がある人は、いろんなものを食べたり嗅いだり見たり聞いたり触れたりして、自分の感性を鍛えるといいですね。
ぜひ工場見学に来てくださいね!
