同じ日の同じニュースでも新聞によって書き方が違うのはどうして?

株式会社朝日新聞社

新聞は、政治や経済、事件、事故などの情報をより早く、正確に伝えるのが仕事です。出来事のとらえ方と伝え方について、朝日新聞社に聞きました。

違っているからこそ、意味があるんだよ。

東日本大震災から7年となった2018年3月11日の新聞は、各紙とも、現在の復興状況や被災した人々の気持ち、福島第一原発の原子炉内部の様子などを、第1面や特集などで大きく取り上げています。

朝日新聞

第1面では、今も避難生活をする人が7万3千人、道路や鉄道は整備されても被災地の生活が戻っていない実態を伝え、2面では、原発事故の影響で避難を強いられた人たちの精神的苦痛に焦点を当てている。

朝日新聞
読売新聞

読売新聞

2016年度までに8割が使われた国の復興予算について、使い道や復興の進み具合について図を使って示す。また、福島第一原発の原子炉内部の現状と廃炉作業の予定を写真や図を示して説明している。

同じ東日本大震災から7年目の記事でも、新聞によって、取り上げ方が違います。
何をもっとも強調するかが会社によって違うのです。新聞には事実を伝えると同時に、世の中に訴えたい主張や意見を発信する役割もあり、同じニュースを扱っても新聞社によって逆の意見になることもあります。だからこそ、多様な状況や考え方が読者に伝わるのです。

朝日小学生新聞

3月9日から3日連続で、津波や原発事故の被害を受けた人たちのその後を伝えた。11日は、原発事故現場近くの富岡町から避難した青年の故郷への思いをルポしている。

朝日小学生新聞
福島民報

福島民報

第1面では、福島県を東西につなぐ道路の一部開通を取り上げ、8~9面では、震災や原発事故の教訓を伝える施設の建設計画や再開した小中学校の様子を伝えている。

毎日新聞

1、2面を使い、津波で中学生の息子を亡くした女性が、後悔を抱えながら「遺族会」をつくり、再発防止のため今も「語り部」を続ける姿を紹介する。

毎日新聞
kemonon

いろんな考え方、伝え方があるケモ。

桃太郎のお話、きみならどう語る?

だれもが知ってる「桃太郎」の昔話も、鬼の立場から見てみたら、ハッピーエンドとはいえないのかも? ひとつの出来事も、伝え方や語り手の視点によって、内容は異なって見えることがあります。

きみだったら、どう考える? みんなで話し合ってみよう。

桃太郎 点線 鬼 yui hinata

情報を自分の頭で読み解き、その正しさを判断し、活用する能力のことを 「メディアリテラシー」といいます。

「何が正しいか」を考え、世の中に問いかける仕事です。

答えてくれた人

株式会社朝日新聞社 報道局 国際報道部 杉山正さん

新聞記者は世の中で起きていることを早く正確に伝えることが仕事の基本です。それに加えて、大事なことがあります。世の中に対して「おかしい」と思ったことを書いて、みんなに知ってもらい、考えてもらうことです。
私は以前、秋田県で記者をしていたのですが、この時、ある事件が起きました。救急車に乗る救急救命士たちが、医師にしか許されていない方法で病気の人を助けていたことがわかったのです。法律違反なので、彼らは大批判されました。でも私はこう思ったのです。「人の命を救うためなのだから、正しいことなのでは?」

新聞
秋田で書いた記事。

だから、その考えを裏付けるためにたくさん取材をし、さまざまな人の考えを聞きました。そして、「間違っているのは国の制度の方ではないか」と問いかける記事を書いたのです。最初は、「法律違反した人をかばっている」と私が批判されました。しかし、諦めずに書き続けると、国会でこの問題が議論されるようになり、やがて制度の方が変わることになりました。さらに、一部の行為は医師や救命士にとどまらず、普通の人もできるようになりました。今、街中でよく見かけるAEDという電気ショック器がそれです。
ひとつの記事が、世の中が動くきっかけにもなります。「何が正しいのか」。誰かに言われたままに書くのではなく、自分で考えて世の中に問いかけることも、大事なのです。
今は、国際報道部という部署で、日本だけでなく、世界各国を巡って記事を書いています。でも、記者としての心構えは、秋田の時と同じです。

朝日新聞社 杉山正さん
アフリカ・ニジェールの難民キャンプで子どもたちと。
(撮影・中野智明氏)